新規事業の失敗確率は99%とも言われますが、その最大の理由は技術力や資金力ではなく、市場に受け入れられない、すなわち「顧客が欲しがらないもの」を作ってしまうことにあります。これは、情熱ある優秀なチームほど陥りがちな「プロダクトアウト(技術起点)」の罠です。
この記事では、その失敗を未然に防ぐための戦略的な「事業の設計図」として、バリュープロポジション(VP)の重要性を解説します。VPの仮説を立て(顧客インタビュー、VPC)、検証し(MVP)、事業計画に落とし込むまでの具体的なプロセスと、その最大の難関である「創業者の思い込み」を排除する方法について、専門家である株式会社コリンが解説します。
目次
多くの新規事業が、時間と多額のコストをかけたにもかかわらず、市場に受け入れられず失敗に終わります。その根本原因は、プロダクトの品質が低いからではありません。
特に技術力(技術シーズ)を持つ企業が陥りがちなのが、「こんなに凄い技術ができたのだから、きっと売れるはずだ」という「プロダクトアウト」の発想です。
企業側は「高性能な機能」そのものを「価値」だと信じていますが、顧客が求めているのは機能そのものではなく、「自身の深刻な課題(Pain)の解決」です。この、企業が自信を持って提供する「機能」と、顧客が本当にお金を払ってでも解決したい「課題解決」の間に生じる決定的なギャップこそが、新規事業が失敗する最大の原因である「価値のズレ」です。
この「価値のズレ」を、開発の初期段階、つまり致命傷になる前に防ぐための戦略的フレームワークが「バリュープロポジション(VP)」です。
VPとは、単なるキャッチコピーやスローガンではありません。それは、「どの顧客セグメントの、どの本質的な課題を、自社のどの独自の強みによって解決するのか」を厳密に定義した、事業の成功確率を測る「事業の設計図」そのものです。この設計図を、顧客のインサイトに基づいて精緻に描くことこそが、失敗を未然に防ぐ最も確実な第一歩となります。
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優れたVPは、会議室での議論やひらめきから生まれるのではありません。顧客の生の声(インサイト)に基づき、「仮説」→「検証」→「修正」という科学的なプロセスを経て構築されます。
VP構築の起点は、ターゲット顧客への定性インタビューです。ここで重要なのは、アンケートで「何が欲しいですか?」と聞くのではないことです。それでは、顧客自身が想像できる範囲の、ありきたりな答えしか返ってきません。
「Jobs to be Done(JTBD:顧客が片付けたい仕事)」の理論に基づき、顧客が日常業務で「本質的に何を(Job)達成しようとしていて」「何を障害(Pains)と感じていて」「何を(Gains)望んでいるのか」という、顧客自身もまだ言語化できていない本質的な課題を深掘りします。
ステップ1で得た顧客のインサイト(Jobs, Pains, Gains)を、VPC(バリュープロポジションキャンバス)の右側「顧客プロフィール」にマッピングします。
次に、自社の技術シーズやアイデアを、VPCの左側「バリューマップ」にマッピングします(Products, Pain Relievers, Gain Creators)。
この両者を照らし合わせ、「自社の解決策が、顧客の最も深刻なPainsや、最も望まれているGainsに適合しているか?」を可視化します。この「適合(フィット)」こそが、VPの「仮説」となります。
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VPCで描いた「仮説」は、この時点ではまだ机上の空論に過ぎません。これを、「MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)」によって検証します。
ここで言うMVPとは、安価なプロトタイプや機能限定版のことではありません。VPCの仮説(=顧客が本当にそのPainに強く悩み、我々のRelieverに価値を感じるか)を検証できる、最小限のソリューションを指します。場合によっては、精巧なLP(ランディングページ)、デモ動画、あるいはシステムを組まずに手動でサービスを提供する「コンシェルジュ型MVP」でも構いません。
顧客にMVPを提示し、その反応(=お金を払ってでも使いたいか、という本気の反応)を見ることで、VPの仮説を修正し、研ぎ澄ませていきます。
検証されたVPは、新規事業の「羅針盤」となります。これは、経営陣(投資家)を説得し、限られた開発リソースを最適化するための、チーム全員の強力な武器です。
新規事業の事業計画書において、検証済みのVPは「勝てるロジック」そのものです。
経営陣や投資家が納得するのは、「競合A社より機能が3つ多い」ことではありません。「競合A社が見落としている、顧客のこの深刻なPain(VPCで発見)に対し、我々だけがMVPで検証済みの解決策(VP)を提供できる。だから勝てる」という論理です。
この検証済みのVPこそが、誰にも模倣できない最強の「競合優位性」となります。
VPは、プロダクト開発のロードマップ、特に「優先順位」を決定づけます。
エンジニアが作りたい機能や、競合が持っているからという理由で機能を追加するのではなく、「VPCで定義した顧客のPains/Gainsに直結する機能」のみを最優先で開発します。
逆に言えば、VPに関係のない機能は「作らない機能」として明確に意思決定できます。これにより、限られた開発リソースを「顧客が本当に価値を感じる部分」、つまりVPの強化に集中投下できるのです。
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この「顧客インタビュー → VPC → MVP」というプロセスは、理論上は完璧です。しかし、これを実行する上で、ほとんどの新規事業が陥る「最大の難関」が存在します。
新規事業の担当者(特に創業者や開発者)は、自社のアイデアや技術に強い「情熱」を持っています。その情熱こそが、事業を推進するエンジンであることは間違いありません。
しかし、その情熱が、顧客インタビューの場において「バイアス(思い込み)」となって作用します。顧客が「まあ、あると便利かもね」と曖昧な相槌を打ったのを、「これは絶対に欲しい!」と自社に都合よく解釈してしまうのです。
顧客の本音(本質的な課題)と、自社が聞きたい答え(技術への賞賛)を混同し、VPCの「仮説」そのものが間違ったままMVPの検証に進んでしまうケースが後を絶ちません。
この「思い込み」というバイアスは、内部の人間だけでは絶対に排除できません。情熱があるからこそ、盲目になるのです。
だからこそ、VPの仮説構築と検証プロセスには、自社プロダクトに一切の情熱も思い入れもない、冷静かつ客観的な「第三者の視点」が不可欠です。
この第三者が、顧客の本音を引き出すフラットなインタビューを行い、MVPの検証結果を非情なまでに客観的に分析することで、初めて「本当に正しい仮説」、すなわち「顧客がお金を払ってでも解決したい課題」にたどり着くことができるのです。
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多くの新規事業が失敗する理由は、顧客が欲しがらないものを、自社の「思い込み」で作ってしまうことにあります。その「価値のズレ」を防ぐ設計図がバリュープロポジション(VP)です。
しかし、VPの仮説構築(インタビュー、VPC)と検証(MVP)のプロセスは、創業者や開発者の「情熱」が「バイアス」となり、失敗するリスクを常にはらんでいます。
私たち株式会社コリンは、まさにその客観的な「第三者の視点」を提供する、バリュープロポジション設計の専門家集団です。私たちは、貴社が持つ「技術シーズ(プロダクトアウトの種)」に思い入れを持ちません。私たちがフォーカスするのは、「顧客のPains」ただ一点です。
貴社の技術を、顧客が熱狂する「本物の価値(VP)」へと客観的に「翻訳・転換」し、その価値を100%伝えるための戦略(ポジショニングメディアなど)の構築までを一気通貫で支援します。
「自社の技術シーズは、本当にニーズがあるか客観的に知りたい」
「顧客インタビューをしたが、本音が見えてこない」
「VPCを作ったが、ここからどうMVPを設計すればいいか分からない」
こうしたお悩みを持つ新規事業責任者様は、まずは無料の戦略相談をご活用ください。貴社の事業の「思い込み」を排除し、客観的なデータに基づく「勝てるロジック(VP)」の構築を、私たちが伴走支援します。